絶える事のないAKUMAとの戦い。
ハートのイノセンスを狙っての激しい攻防戦。


ノアの一族が戦いに参戦し、
多くののエクソシストたちがその命を落とす。
元帥の死。
仲間の咎落ち。
数々の悲報がアレンや神田の心に重く圧し掛かっていた。











「千年伯爵とノアの一族が元帥たちを狙っている。
 動けるエクソシストたちは、直ちに各班に別れて、元帥の護衛にあたること」



コムイの指令を受けて、アレンと神田もそれぞれの師匠の元へと
その脚を急がせた。














神田はティエドール元帥の元で共に修行した仲間……マリ、デイシャと共に、
バルセロナの街でAKUMAとの死闘を繰り広げていた。
見たこともない多数のAKUMA。
倒しても倒しても湧いてくる敵に、
いくら体力に自身があるエクソシストと言えども疲れを隠せずにいた。



「……ったく、切っても切ってもキリがねぇ……
 どこから湧いて出てきやがんだ? こいつら……」



やや弾む息を抑えながら、
神田は仲間と合流する術を考えていた。
暗い路地。
AKUMAの餌食になった無数の死骸が、
そこいらへんに無造作に転がっている。


まるで地獄絵図のような光景に、
神田は思わず顔を顰める。



「うっひょ〜、これじゃ地上も地獄とたいして変んないなぁ。
 誰かさんが地獄へ行こうとしないなら、
 此処を地獄に変えちゃうってのも、おもしろいかもな?」



闇から突然響く声。
誰かが、まるで古い旧友にでも話しかけるかのように
気さくに声をかけてくる。



「……誰だっ!?」



神田が六幻の柄に手を掛けると、
声はさらに愉快そうな響きを増し、今度はすぐ耳元で聞こえる。



「おっとぉ、まだそんな剣に自分の魂を縛られてんの?
 相変わらずだなぁ……。
 これじゃ俺の努力は全くの水の泡ってカンジだね。
 何のためにこんな姿になったのか情けなくなるよ。
 ……けどね、実は、これはこれで結構気に入ってんだ」
「……お前……」



何故か聞き覚えのあるその声に、神田は違和感を覚える。
状況からして明らかに敵であるはずなのに、
そこからは殺意は愚か敵意すら感じない。
あろうことかその気配に、微かな懐かしさすら感じてしまうほどだ。



「それにさ、今の俺の能力……結構便利なのよ。
 ほら……こうして、自分の好きなモノに、好きなだけ触れられる」
「……!?……」



いきなり声の主が姿を現したと思うと、
男は神田の髪を手に掬い、そこへあからさまに口付けを落とした。


神田は咄嗟に振り払おうとするが、どういうわけか全身に力が入らない。
六幻を握った手を動かす事もできぬまま、
ただその場に立ち尽くすしかなかった。



「お前は誰だ?……俺になにをした?」
「おや……つれないなぁ……。
 愛しい旧友の顔も忘れちゃったの?
 ……って、まぁ仕方ないか。人間に転生する時点で普通は記憶を失うし、
 なんたって今の俺たちは敵同士だからね。
 じゃあ、改めて自己紹介を。
 俺の名はティキ・ミック。
 お察しの通り、お前らエクソシストの宿敵、ノアの一族だ。
 あぁ、それと俺の能力は自分の触れたいと思ったものだけに触れられること。
 例えばこうして身体をすり抜けて、心臓を鷲掴みすることだって出来るのさ。
 ちなみに今、俺の左手はユウの頚椎神経を握ってるから。
 首から下……全く動けないよ?」
「……このっ……!」
「だからね……ようやく会えた再会の挨拶……させてくれる?」
「……おまっ……何をっ……っっ!」



驚きに目を見開く神田を尻目に、
ティキは愛しそうにその頬を優しく撫でると、
神田の唇をそろりと指でなぞる。
そして、形の整った薄い唇に、自分の唇をあてがった。



「……んっ……んんっっ……!」



頑なに閉じた唇を無理やり抉じ開けようとするも、
神田の抵抗も中々のもの。
ティキは名残惜しそうにその唇をペロリと舐めると
互いの額を付けたまま、恋人に囁くように告げる。



「……ユウ……会いたかった……」
「……なぜ……俺の名前を知ってる?
 それになぜ、俺を殺さずに……こんな真似をする……?」



訳がわからなかった。
見も知らぬ敵に動きを封じられ、キスをされ、
挙句の果てに、会いたかったと告白まがいの言葉を紡がれる。
確かに単なる敵と言うのとは違う気がする。
男が纏う雰囲気に、嘘は感じられない。
だとすれば、このティキというノアは、自分と何らかの関係があるのか?



「まぁ、まだまだ先は長いから、少しは自力で考えてみてよ?
 そう……俺ね……これからお前の仲間を殺してくから。
 まずはこの街にいる、お前の仲間。
 それから……あの白い少年……かな?」
「……なっ……!」
「あれ? 記憶がないはずなのに、もう少年のことは思い出したの?
 それってちょっと卑怯だなぁ。
 俺の事は忘れてるくせに……。
 まっ……いいか……。
 これから徐々に一人ずつ壊してって、そうだな……
 アレンが居なくなって、この世に誰も居なくなったら、
 そしたら……今度こそ、俺と一緒に……
 ……地獄に堕ちてくれる……?」
「お前……なに訳のわかんねぇこと言ってやがるっ!
 そんなこと、……俺がさせねぇ!」



身体が動かないにもかかわらず、相変わらず強気な姿勢を変えない神田に、
ティキは笑いを堪えきれずに小さく吹き出した。



「……ははっ……ユウ、お前って最高!
 だから好きなんだ。
 けど忘れるなよ? 俺は絶対……諦めないから……」



最後の言葉を紡いだ瞬間、さっきまでとは違う冷たいオーラがティキを纏う。
その瞳には、ただならぬ神田への執着が浮かび上がっていた。



「それまでしばしの別れだ……またな……ユウ……」



妖艶な微笑だけを残して、ティキは一瞬にしてその姿を闇の中へと消した。
ティキが消えてすぐ身体の自由を取り戻した神田は、
ゲホゲホと大きく咳き込んで、倒れ込む。
寸でのところを六幻で支え、苦しそうな息を吐きだした。



「……くっそう……あいつ何なんだよっ!
 ……ったく、そうやすやすと好きにさせるかっっ!」



ドクン……と何かが神田の中で脈打つ。
その瞬間、何処からともなく白くボヤけた映像が頭の中に浮かんだ。
儚げなティキの笑顔。その背に見える白い羽。
そして、その手に抱かれた……瀕死のアレン……。



「…………!!…………」



何を悟ったのか、神田が唇をぐっと噛み締める。
そしてティキが姿を消した暗闇を睨みつけ、
その拳を強く握り締めた。
















翌朝、彼が目にしたのは、
無傷のまま内臓の一部を抜き取られた仲間……
デイシャの亡骸だった。
こんなふざけたマネが出来るのは、そう、アイツしかいない。



「……くそっ……!!」



歯を喰いしばり、壁を思い切り叩きつける。
昨夜ティキが予告した通りになってしまった。


そして、次の瞬間、
神田の背中を一筋の冷たい汗が伝い落ちる。


……まさか……


それは確信に近いものとして神田の中で焦燥へと変る。



「……モヤシっっ!!」



ティキが次に狙う獲物は間違いなくアレン・ウォーカー。
愛しい相手……その人なのだと……。











                                     

                                   
NEXT⇒
                            
                 
















≪あとがき≫

いよいよティキポン登場です♪
この小説ではティキ→神田→アレンという構図ですが、
こういうのってありですかね??( ̄▽ ̄;)
ティキ→アレン←神田というアレン総受けのパターンは良く見かけるのですが、
(何を隠そうオフではやらかしてます……;)
たまにはこういうのもいっかなぁ〜と思うのです。
前にも言いましたが、スキンと神田が戦って、
神田が崩れ落ちる世界に飲み込まれた瞬間、
ティキが見せた涙はスキンのためではなく、あくまでも神田の為であったと……。
腐った脳みそでそう感じ取ってしまった訳です……(☆o☆)

この後、ご存知の通り、アレンはティキに致命傷を負わされるわけですが……。
んふふ……さて、どうなるんでしょう???(〃⌒ー⌒〃)ゞ

では、またまた、
続きを楽しみにしていらしてくださいませ〜〜〜(=^▽^=)





                                  
ブラウザを閉じてお戻り下さい★

〜天使たちの紡ぐ夢〜   Act.13

どんなに嫌われようと構わない。
憎まれ、蔑まれ、永遠に許しを請えなくてもいい。
不器用な愛だと言われても、
歪んだ想いだと罵られても、
それでも俺はお前と対峙することを
……望んだのだから……。